好きって言って!(短編)
「はい」

私の目の前にコトとグラスが置かれた。

淳也のカップからはコーヒーのいい匂いが漂ってる。

「何で私ばっかり水なのよ」

「酔い冷ましには水って決まってんだよ」

冷たく一蹴されてしまい、仕方なくグラスを手に取ると、レモンのいい香りがした。

意外と気が利いてるんだよね、なんて思いながら水を口に含んだとき、

「つーか菜々、お前さ。
何であんなとこ行ったわけ?」
淳也がつぶやいた。

「あんなとこ?」

顔を上げると、淳也は少し不機嫌な様子でコーヒーを飲み干すと、カップを乱暴にテーブルに置いた。

「だから…、さっきの飲み会。
酒飲めないし、サークルも入ってないのに何で?」

淳也はじっと私の顔を見る。

「あんなの、飲み会なんて表向きで、ただの合コンだろ?」

「あぁ、まーね…」

まさか、淳也を忘れるために新しい男探しに行きましたなんて重いこと言えないしな。

私が言葉を選んでいると、

「俺じゃ足りてないって言われたみたいで、ムカつく」

淳也は急に私の両手を掴み、そのまま壁に押し付けた。

「そんなに俺はヘタクソかよ」

淳也の顔が近い。

この切れ長な目も、薄い唇もめちゃくちゃ好き。

そんな場違いなことを考えているうちに、気付けば淳也に唇を奪われていた。
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