一途愛
いつも冷静そうな伊織さんが 取り乱している。

「どうしよう せっかくやっと授かったのに…
この子に何かあったら私もう生きていけないわ。」

「私はよくわからないけど
今は パニックにならない方がいいですよ。
しっかりしてください。
伊織さんおかあさんなんでしょ?」

「そうだけど…そうなんだけど…姫ちゃん…
彼がすごく喜んだのよ……。
私には子供だけが全てじゃないって言ってくれてたけど
妊娠した時 彼 泣いてくれたの…。
だからどんなことがあっても
この子だけは私の命にかえても…守らなきゃ。」

「そうですよ。
守るんです。伊織さん落ち着いて。
おかあさんが パニクったら赤ちゃんはどうしていいか
わからないんですよ。」


タクシーの運転手が
「病院に電話した方がいいよ。実はうちも先月
子供生まれたんだよね。
まずは病院に電話して状況話した方がいい。」

そう教えてくれた。

「ありがとうございます。」

震えが止まらない伊織さんから携帯をとって
病院に電話をした。


早産の恐れがあるって用意して待ってますって
看護師が言ったけど そのことは伊織さんには
伝えなかった。
そんなこと言ったら絶対もっと
パニックになるのは私にでもわかったから。

伊織さんの冷たい手を握った。

龍の手の冷たさを思い出して
私は力一杯握りしめた。
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