サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
有喜の母は新幹線に急いで乗り

茨城へ出かけた。

一人で乗る新幹線は

不安な気持ちをあおるかのように

なかなか着かない。

無事を願う母にとっては

一分一秒でも

早くお父さんに会いたい気持ちで

いっぱいだった。

2人の写真を握りしめ、

父の無事を祈っている。

お父さん…

ただの風邪であって…。

そう願っていた母を

神様は

無情にも裏切るのだった。

茨城に着いた母は

素早くタクシーに乗り込み

父の単身赴任先へのアパートへ

向かった。

アパートに着き、

母は急いで家のチャイムを押す。

しかし、

ドアの向こうからは反応がない。

いつも父は

家の鍵をポストの裏側においていたので、

母はすぐに鍵を探しに行った。

家の鍵を手に取り玄関を開ける。

『ガチャッ』

鍵を開けたが、

ドアは閉まっている。
 
「あれ?」

母はもう一度手首をひねり鍵を回す。

『ガチャッ』

次は素直に開いた。 

「えっ?
 
 あの几帳面なお父さんが

 鍵を閉め忘れてたの?

 もしや…

 泥棒?」

母は血の気が引いた。

急いで部屋に駆け上がる。
 
「お父さーん。

 お父さーん。」

大声で叫びながら、

風呂場やトイレも探すが

やはり父の姿はない。

父の姿を見つけたかったが

1LDKの家の中を探すのに

そう時間はかからなかった。

あの几帳面な父の部屋は

実家にいたときより汚かった。

沢山溜まった洗濯物、

食べたままの食器類、

1つ球の切れた蛍光灯。

一見、父の部屋かと疑ってしまう程の

ものだった。

何度同じ場所を探しただろうか…。

母は諦め外を探す事にした。
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