サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
父の病室に帰った母は、

父の姿を見るなり、

涙が溢れ出してきた。
 
「お父さん…。
 
 いつからそんな病気に

 悩まされてたの?

 少しでも相談してくれたら、

 私だって

 力になれたかもしれないのに…。」

母は、

父の体に覆い被さるように泣いていた。

ふと、

父は起きあがった。
 
「あ?

 おまえどうした?」

父はなに事もなかったように話し出している。

「あなた!

 心配したんだから!

 連絡もくれないで、

 どこほっつき歩いて…」
 
「ここは何処やね?

 家に帰らんと…。」

父はそう言い

荷物を

枕カバーの中に入れ

準備を始めている。

母はビックリして父を止めた。
 
「お父さん!

 ここは病院よ。

 もう何日もここにいるんでしょう!」

父は聞く耳も持たず、

枕カバーに入れた荷物を持ち、

病衣のままで廊下を歩きだした。
 
「お父さん!

 ちょっと待って!」

母は大声で父を止めようとしている。

そこへ、看護師がやってきた。 
 
「御手洗さん。

 慌てなくて大丈夫ですよ。

 ここは痴呆病棟ですから、

 徘徊しても大丈夫なように

 この階からは

 患者さん一人では

 降りられないようになってます。

 安心して見守ってあげてください。」

母は唖然としてしまった。
 
「徘徊って

 つまり歩き回るんですよね。

 この行為で、

 主人は家からいなくなってたんですか?」

母は尋ねた。
 
「そうでしょうね。

 御手洗さんの痴呆症状としては、

 失見当識、失語、徘徊、幻覚が

 良く現れてるみたいですよ。

 症状としては

 結構進んできてますね。

 徘徊は一時見守っていてあげたら

 落ち着きますよ。」

そう言い、

看護師は業務に戻っていった。

母はその日1日父に付き添う事にした。
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