サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
手持ちの時計が6時をまわった。

今日はちょっと速いけど、

そろそろ切り上げて、デートの準備でもしよっ。

と、そこへ直美が走ってきた。

「部長~。

 もうお帰りですか?

 今日はいつもより、全然早いじゃないですか~。

 今日は何かあるんですか?」

ニコニコしながら有喜の顔を覗き込んで来る。

「そんなんじゃないわよ!

 くだらない話しする暇があったら帰りなさい。」

有喜は直美を冷たくあしらう。

「えーっ。

 違うんだ~。

 部長はほんと男に見向きもせず、仕事一筋なんだからぁ!

 いつか、女が腐ってしまいますよ~。

 今度私の友達紹介しましょうか?

 ねえ、部長!」

周りの社員の目が部長にまとわりつく直美を見て、

面白がっている。

あんな冷血女がデートできる分けないじゃない。

と言うような目で見られている。

有喜はプライドを傷付けられて怒りに燃え上がっている。

「あなたねぇ、人に観照する暇があったら、

 仕事しなさいって言ってるでしょ!」

ほんっと、直美には腹が立つ!

有喜は怒りを抱えてオフィスから出ていった。

「あ~ぁ…。

 また怒らせちゃった…。

 直美はただ部長さんと一緒にご飯食べたくて

 今日の予定聞いただけなのになぁ~。」

と、ガックリ肩を落とし、

トボトボ自分のデスクに向かった。

「直美あんな人のこと気にすることないよ。

 それより、私達とご飯食べ行こうよ!」

と、1つ上の先輩明美が誘ってくれた。

「うん。

 ありがと。

 でも今日はやめとく…。

 なんか怒られてブルーな気分で帰ったら

 今日は反省して

 明日は仕事がバリバリ出来そうな気がするから♪」

と直美は常にこんな調子で

マイペースを保っていた。

これだから、有喜に何を言われても

右から左へと話は筒抜けで気にならないし、

ストレスは滅多に溜まらないのだ。
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