サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
1時間く位経っただろうか…。

2人きりになって、

ようやく有喜の母が口を開いた。
 
「先生って冷たいもんなんだね。

 テレビではよく聞くけど、

 ほんと人の気持ちなんて

 無視なんだね。

 自分が言いたい事だけ言って、

 『はい、さようなら』

 だって…。

 神の手だか何だか知らないけど、

 私達にとっては、

 昨日の今日で

 そんな告知の事まで

 頭まわんないよ。

 今言ったら、

 余計有喜はショックで立ち直れない。

 それをあんな言い方しなくたって…。」
 
有喜の母親は涙も枯れてしまい、

出てこなくなった。

目が真っ赤になり、

持っていたハンカチは

涙でグショグショになっていた。

純一は、

こんなになった有喜が悔しくて仕方なかった。
 
「こんな病気になったのは、

 僕のせいなんです。

 僕が、仕事ばかりになって

 有喜に寂しい思いをさせて

 しまったから、

 有喜のアルツハイマーの進行を

 進めてしまったんです。

 悔やんでも悔やみきれません…。

 僕があの時無理にでも

 結婚承諾させてれば…。」

純一は歯を食いしばり、

ズボンを握りしめ、

涙をこらえる。
 
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