サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~

大分旅行

旅行当日、

純一は時間より少し早めに

迎えに来た。
 
「準備できてるか?」

純一は有喜の表情がいいので

少し安心した。 
 
「もちろん!

 待ってたよー。」

有喜はいつもよりテンションが高く、

楽しみにしていた事が伺える。
 
「行って来ます。」

有喜は幸せそうに

家を後にした。

母も直ぐさま家を出る準備を始めた。
 
2人は大分に向けて出発した。

「楽しみだねー。」

有喜は助手席に乗り

はしゃいでいる。

久しぶりに見る

有喜の無邪気な姿に

愛おしく思った。

純一は直ぐさま車を走らせた。
 
「最近

 あんまり長い時間一緒にいられなかったから、

 今日は今までの

 ごめんなさいを含めての

 デートだな。」

純一の優しい笑顔を見るだけで

有喜は幸せだった。
 
「温泉、久しぶりだなー。

 最後に行ったのはいつだろう?

 そう言えば2人で言った事も

 ないよね。

 なんか

 ドキドキ☆ワクワク

 って感じ。」

有喜のこんな笑顔は

何日ぶりに見ただろうという感じだった。

2人で過ごす時間は

あっという間で、

渋滞も苦にならない程だった。

大分に着いた2人は

直ぐに別府にある温泉に入った。

有喜は楽しいのか、

アルツハイマーの症状は全く出なかった。

楽しい日を送る事が、

有喜への一番のリハビリとなり

特効薬となっていたのだった。
 
「やっぱり旅行はいいねー。

 温泉は別々だから

 ちょっと寂しいけど、

 上がったらここの椅子で

 待ち合わせね。」

有喜は旅館の浴衣を手に取り、

楽しみにしていた温泉の暖簾をくぐった。
 
「有喜!
 
 あんまり長湯すんなよ。

 のぼせて倒れるぞ!」

純一はそう言い笑顔で

有喜の背中を見送った。 
 
ひょこっと有喜は暖簾から顔を出し

「わかってるっ♪」

そう言い手を振り中へ入った。
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