サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
『ピリリリリ』

純一の携帯が

鳴った。
 
「ごめん。

 電話だ。」

純一は携帯を手に取った。
 
「もしもし。

 はい。はい。

 …はい。

 今からですか?

 えぇ、ちょっと…。

 はい。

 すみません…。

 わかりました…。」

純一は携帯を切った。
 
「はぁ…。」

深く溜め息をついた。
 
「どうしたの?」

有喜は不安そうに

純一の顔色を伺う。
 
「ちょっと仕事で

 部下がトラブったみたいなんだ…。

 あいつ一人で解決できなくて、

 上司が俺に

 電話よこしてきたから…。

 ちょっと会社に顔出してくるよ。」

申し訳なさそうに

純一は有喜に話す。
 
「えぇ~。

 せっかくの旅行なのに…。」
 
「明日の昼までには

 必ず戻るから。

 約束するよ。」

純一のせっぱ詰まった顔を見ると

有喜は許すしかなかった。
 
「解った。

 待ってるから、

 必ず戻ってきてよ…。」

純一に嫌われたくない

と言う有喜の気持ちが

有喜にいい子を演じさせた。
 
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