サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
「私

 もう駄目だ…。

 何のために

 生きていくの?

 大切な人の

 一番じゃない私は、

 生きてく必要ないよね…。

 誰も私を

 必要としてない。

 私はむしろ

 邪魔者…。」

何時間経っただろう、

辺りは日が差してきた。

有喜の目は涙も枯れ果て

虚ろな目になっていた。

有喜の心を

鬱はどんどん蝕んでいく。

有喜の耳には

幻聴までも聞こえていた。
 
『お前は純一の

 重荷なんだ。

 ほんとは邪魔なんだよ。

 昨日だって仕事って言ってたけど、

 ほんとはどうかな…。

 愛想尽かした

 だけなんだよ。』
 
「そっか…。

 そうだよね。」

有喜は思い立ったかのように

立ち上がった。

ビールのコップを手に取り、

机の角に投げつけた。

コップが一気に凶器化した。

割れたコップを手に取り、

有喜は歯を食いしばり、

「いやぁ~。」

甲高い声で叫びながら、

力を込めて手首を切りはなった。

今の有喜には、

痛いという感情すらなかった。

血まみれの手をぶら下げながら

有喜はゆっくり

ベッドに横たわった。
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