サンドグラス ~アルツハイマー闘病記~
介護と言っても

食事と着替え

くらいしか出来ないが、

毎日一生懸命やった。

今日もいつものように

食事介助をしていた。

食事は殆ど

ミキサーにかけるか

刻んであり、

食べやすい形にはなっていたが、

見た目はいいとは言えない。

物の形を成していない物を

食べるというのは

どういう気持ちなんだろう…。

そんなことを思ったため、

1口もらった。
 
「まずっ。

 お父さんこんなの

 よく食べられるわね!」

父は黙って

与えられたら口を開け

食べる、という行為を

繰り返していた。

たまには

味の濃いものを食べて

メリハリつけなくっちゃねー。
 
「そうだ!

 お父さん

 昔コーヒー大好きだったから、

 買ってきてあげるね!

 食後の一杯の

 ブラックコーヒー、

 定番だったわよね。」

そう言い、

母は食堂に行き、

一杯300円のブラックコーヒーを買った。
 
「お父さん、コーヒー。

 挽きたてだから美味しいわよ!」

父は一口飲んだ。
 
「母さん…。

 ゴホッ…ゴホッ…。」

ポツリと呟いた。
 
「えっ?

 今呼んだ?」

母はあまりの衝撃に固まって、

冷静に今の言葉を繰り返した。
 
「母さん…。

 母さん…。

 母さん!そう言ったわよね、

 お父さん!

 嬉し~い!

 潜在能力は残ってるのね!」

母は喜び勇んだ。

父はよっぽど美味しかったのか、

ムセながらも飲み続けた。
 
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