茜色の太陽
永い永い眠りから醒める時が来るとは想像したこともありませんでした。
雪深い里の山奥に、ひっそりと佇む塚があります。
子供の大きさぐらいの石をひとつ置いただけの、とても質素な墓のようなものです。
そこに、わたしたち"鬼"という種族が封じられたのは、もう100年も昔のことになります。
わたしが生きていた時代から、ここは雪が深く、とても寂しいところでした。
封じられた鬼は二体。
一人は、わたしを救ってくださった恩人です。
一人は、半端者であるわたしです。
他の鬼たちはもう、いなくなってしまったのでしょうか?
少なくとも、わたしと時代を共にした鬼たちは、100年の昔に全ていなくなってしまっています。

鬼塚と呼ばれる場所でわたしは意識を取り戻しました。
人間の好奇心なのか、何のか分かりませんが確かにわたしは目覚めています。
寂しい―――――――。
寒い―――――――。
感じたのは、封じられていた時に感じていたそれ。
それから、激しい餓えでした。
鬼の主食が人間だというのは、何処かの御伽噺の世界でしかありません。
普通に米を主食として食べ、野菜も、お魚もいただきます。
けれど、人間を喰らわないというのは嘘です。
餓えが満たされない状況であれば、人間を喰らうこともわたしは厭いません。
わたしを救ってくださった鬼はそれを好みはしませんでした。
わたしが人間を切り裂くことを決して好みはしませんでした。

「―――――――…ッ。」

真っ暗な山の中で寒いと震えるわたしはやはり孤独でした。
封じられていた間、一緒にいたあの方も何処にいるのかわたしには分かりません。
ふらふらと柔らかい雪に足跡をつけていきます。
まずは、この餓えと寒さを早急に対処しなければと考えました。
薄い記憶と感覚だけを頼りに山を下っていきます。
鼻が捉えたのはわたしの大好きな色の香でした。
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop