蝶が見る夢
こんなところに押しかけてくるくらいだ、余程切羽詰まっていることくらい分かっている。
今は予兆が見えずとも、何をしでかすかは分からない。
挑発しすぎた大人気ない自分を諌めつつ、私は深呼吸(のような溜息)をひとつ。


「…そうだね。確かに関係ないか。だけど、そんなこと言っちゃったら、私だって『関係ない』って言っちゃいますよ?」


苦笑いを零し、なるべく優しくそう言うと、彼女は膝の上でぎゅっと握り拳を作った。
それでもまだ、彼女は私を睨みつけながらだんまり。


「あなたも私と一緒で、匠のお客さんでしょ?」


すると彼女は、尖らせていた目を丸くした。
緩んだ表情に、私は少し安心する。
憎悪と嫌悪の目を向けられるのは、もう御免だ。


「私も匠の客なんですよ」

「えっ…」


咄嗟に漏れた驚きの声だったのだろう、しかしすぐに彼女の顔は疑心に曇る。


「そ、それなら!何で平然とここにいるんですか?合鍵使っていませんでした?」

「合鍵?」
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