蝶が見る夢
「とぼけないでよ。匠がいないのに、勝手に入ってるじゃない」
これはもう、一から十まで話さないと納得してくれなさそう。
勿論、全てが嘘でできた一から十だが。
私だって少女が何者か、何が目的なのか知りたいと思うし、知る権利は僅かながらあるとは思う。
それをキイキイ騒ぎ立てず問わないのは、私が彼女より大人だからだ。
二人してヒステリーを起こしたところで、非生産的であることは容易に予測できる。
「そう、合鍵。私はあなたより少しVIPだからね」
「なっ…!」
彼女が立ち上がらんばかりの勢いで声を上げた。
かちゃんとヘレンドがガラステーブルの上で小さく飛び跳ねた。
ヘレンドを割るのだけは勘弁して欲しい。
この安いマンションに似つかわしくないのはよく分かるけど、それでも私がここに存在している証なのだから。