蝶が見る夢
生徒会に所属していた訳でもない、ただの帰宅部だった彼が演説で体育館のステージに上った日のことを、私は一生涯忘れない。
きらきらした目、覇気のある透き通った声、マイクを持つ白くて細い腕。
絶望のど真ん中にいた当時の私にとって、信じがたい人間だった。
扇動したのは学校という集団だけでなく、私の生きる道。
一目惚れという言葉があまりにチープに感じる出会いだと思っている。
衝撃、焦燥、感動。混沌とした感情が私の中に渦巻いた。
あの時には、10年後には虚ろな表情と陰ったオーラを纏う人間になろうなんて微塵も思わなかったし、この人は死ぬまで輝き続けるのだと信じて疑わなかった。
だけど、そんなのはもう叶わぬ夢物語だ。
そう思っているのに、私は未だにどこかで何かを期待している。
だから私はこうして匠の側にいる。
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