蝶が見る夢
『いいです、けど…』
それでも、私がその誘いを受けたのは、それが山際先輩だからだと思う。
高校生のあの時から殆ど姿形を変えていないその男性が、「匠さん」ではなく、やっぱり「山際先輩」でしかないと思えない。
『あー、うん、嫌ならいいんだけどさ』
『…嫌じゃないですよ』
『随分煮え切らない返事をしたくせに』
ゆっくりと灯り出した新宿のネオンの下で、先輩が寂しそうに笑った。
男と女の中なんてとても簡単だ。
ちょっと1杯お茶を、なんていう話から居酒屋に移り、そして今は見知らぬマンションの寝慣れないベッドの中でその男の体温にまどろんでいる。
ふわふわの毛布が、素肌に気持ちいい。
望んでいたわけじゃない。かといって、望んでいなかったわけでもない。