蝶が見る夢
だから、自分が後悔しない道を選んだ。


『甘い匂いがする…』


うつ伏せになって大きな枕に顔を擦り付け、すん、と鼻で小さく香りを吸い込む。


『ああ、シャネルのやつ』


先輩は私の髪を一房摘んでは落とし、摘んでは落としと遊んでいる。
茶髪のミディアムなんて、何も珍しいことはないだろうに。


『高校の時の先輩からは、想像できないや』

『何が?ホストってこと?』

『それもそうですけど…こんな甘い香水つけてることが』

『俺だって想像できなかったよ。あんなにいい子が、こんなところに墨入れてるなんて』


そう言って、私の髪をふわっと持ち上げて、蝶が潜むそこを指先で撫でた。
普段髪を上げることに慣れていないから、首の後ろがすうすうする。


『高校生の私、先輩、知らないでしょうが』

『あはは。それでも、ちょっと意外』
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