胸の音‐大好きな人へ‐
春佳との遠恋を始めて半年目を迎えた秋の終わり、11月。
街の中には黄昏の風が流れ、道行く人々が身につける衣服も日に日に分厚くなってゆく。
春佳が、何の前ぶれもなく京都までやってきた!
今まで、月に1度は愛知か京都で会うようにしてたけど、そういう時は必ず前もってメールで約束して会ってたのに。
だから、大学の授業を終えてアパートに帰った時、
玄関のドアを開けた瞬間、大好物のコンソメスープの匂いがしてかなりビビった。
勝手に部屋入るって、誰だよ。
料理好きな泥棒!? んなわけないか。
視界すべてが暗いお化け屋敷の中を歩くような気分で靴を脱ぎ、ホールとキッチンの間に立ちはだかる扉を開く。
春佳……!!
約束なんてしてないのに、何でいんの!?
春佳は驚きでかたまった俺に気付き、
「圭!」
胸元まであるミルクティー色の長い髪をシュシュでふんわり結い、ポップな模様のエプロン姿で出向かえてくれた。
「おかえりッ! 会いたかったよぉ。
ギュッてして?」
言うなり、腰に両手を回してハグをせがんでくる。
抱きしめ返すと、幼い子供みたいに俺の胸元に頭をすりよせてきた。
かわいいヤツ。
エプロンもそうだし、よくみると、シュシュもなにげに新品じゃね?
今まで見たことないヤツだし。
もしかして俺と会うためにオシャレしてくれてるとか?
「まだ料理中だろ?
ずっとくっついてないで、鍋見てろよ」
頬が緩みそうになるのをグッとこらえ、そっけない口ぶりで春佳の肩を離した。