胸の音‐大好きな人へ‐

さすがに言い方きつかったか!?

やっぱり傷つけちゃったかな……。

涼しい顔して内心汗だくの俺に、春佳はニコッと笑いかけ、

「そうだった! ごめんごめん!!

圭んち火事にしちゃうね」

と、生まれたてのヒヨコみたいに小さな歩幅でガスコンロ前に戻っていく。


ああ。愛しいなあ……。

後ろ姿まで、なんでそんなにかわいいんだよ。

抱きしめたくなっちゃうじゃんか。



物をあまり置かない俺の住まいは、殺風景で閑散(かんさん)としてる。

たまにサークル仲間や仲良い先輩が泊まりがけでやってきて麻雀したり家飲みする時に役立つくらい。

住んでる俺が言うのも何だけど、男のニオイしかしない地味でオススメできない部屋だ。

掃除が面倒だからなるべく物は置かない。

油断すると洗濯物がたまったりするけど。


そんな華のないグレーを基調にした室内も、春佳がいるだけでずいぶん違って見えた。

例えるなら、静かな夜の海岸を照らす柔らかく幻想的な月明かりのように、たしかにそこにあると分かるぬくもりみたいで。

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