胸の音‐大好きな人へ‐
「圭、味見してみて?」
どこから持ってきたのか、白地に薄紅色の花を描いた小皿を右手にした春佳が、ソファーに座って春佳の料理姿を見てた俺の元にやってくる。
寒い季節だし、暖房もつけてないから、春佳の指先と頬は赤くなってる。
小さい手だな。
味見用スープの入った小皿を受け取る時、春佳の細くてはかなげな指先に触れて胸が鳴り、あやうくスープをこぼしそうになった。
が、なんとか試食完了。
「ん……」
うまい!
ひとくちしか味わってないけど、よく分かる。
春佳はやっぱり、俺の好みを覚えていてくれてる。
というか、そういう記憶うんぬんじゃなくて、この料理を作ってる最中春佳が俺のことを思い出してくれてたってことに胸が熱くなる。
ああ、ダメダメ。また、中学時代のダサい自分に戻りかけてる。
「味、どう?」
不安げに尋ねてくる春佳に、俺はまたまた、感情のない冷えた口調で、
「ま、いんじゃない?
腹減ったわ、食お」
とだけ、言った。