胸の音‐大好きな人へ‐
大学生活って、高校までと全然違う。
おおざっぱに言うと「すべてが自由!」ってやつ。
講義も、サークルも、放課後の過ごし方も、何もかもが自分で決められる。
『自由にできる分、責任感を持て』
『二十歳には達していないが、大学生はもう立派な大人だ』
実家を出て大学近くのアパートへ引っ越しをする前日、オヤジに言われた。
でも、そんなセリフ、聞いたフリで右から左に流してた。
だって、オヤジがくれた入学祝いの現金20万が入った封筒の方が気になったから。
どっちかというとウチの家族はケチで、歯磨き中に水出しっぱなしにするなってうるさいし、半額以下で販売されてる賞味期限ギリギリの食品を買って食費を浮かそうとしてる。
俺が大学行くために一人暮らしすることが決まった日も、アパートの家賃がどうのこうのって渋い顔されたし。
そんなんだから、入学祝いなんて全く期待してなかった。
なけなしの金をくれたオヤジに感謝の情が湧かなかったわけじゃない。
でも、ありがとうの気持ち以上に『やっと大学生になれる!』って喜びの方が大きかったんだ。
……あの頃、前ばかり見てて、残りわずかな高校生活を共に過ごしてた春佳が寂しげな顔をして俺の背中を見てたなんて、知らなかったよ。