胸の音‐大好きな人へ‐
「遠距離ってうまくいかない子多いよー。
やめときなよ。
別に、わざわざ京都まで行かなくたって、こっちにもいっぱい大学あるじゃん」
去年の夏。
幼なじみで1個上のユカ姉に進路を聞かれて答えたら、偏差値とか内申書のことを差し置いて、春佳と遠距離恋愛になることをまず心配された。
春佳はよく俺んちにも来てたから、近所のユカ姉とも顔見知り。
「ユカ姉心配しすぎ。距離なんて関係ねーし」
って、これまたクールぶって返したけど、その時の俺の心臓は夏特有のアスファルトの熱と重なりバクバクして、額から嫌な汗が流れ出ていた。
――遠距離はうまくいかない――。
ユカ姉に言われなくても、わかってるつもりだった。
愛知と京都の間はめちゃくちゃ遠いってわけじゃないけど、ひんぱんに会えるほど近くもない。
俺には京都の大学を選ばなきゃならない理由があった。