胸の音‐大好きな人へ‐
6つ年上の兄が、東京の某有名大学の受験に受かったから……。
『なんだ、そんなことか』
『そんなの君の受験には何の関係もないじゃん』
『兄は兄だろ』
他人はそう言うだろな。
ただ、俺には兄の存在がコンプレックスでしかなく、いつか兄を越したいって、心のどこかで常に考えてた。
親や親戚は出来のイイ兄と平凡な俺を、無神経に比べやがる。
血のつながりがあるってだけでさ。
ま、俺も、身の程をわきまえたヤツだから、兄を越すなんて無理って早々から割り切って過ごしてたけど、中学の時の失恋直後にある雑誌を見て、気持ちが変わった。
《女の子は男子の知的さに弱い》
この一文が、俺にやる気を与え、みるみる勤勉欲を養ってくれた。
あのケチな親が血眼になって探してきた高級塾をサボり日が暮れるまで遊んでた小学生の頃の俺には想像できなかった変化だ。