しゃぼん玉
ミズキはナナセと共に、アイリに呼び出された場所へ向かっていた。
なぜだか分からないが、電話でのアイリは、人目につくのを恐れている様子だった。
そのせいか、彼女が指定してきた待ち合わせ場所も、おかしかった。
アイリの通う大学内の、彼女が所属しているゼミの教室、という、友人同士の集まりには適していない違和感のある場所に、ミズキとナナセは呼び出されたのである。
カフェや自宅、といった場所では出来ない話なのだろうか?
そういった理由から、ミズキの不安は膨らみ、自然と無口になっていた。
ナナセはそんなミズキを力づけるように、彼女の手をそっとにぎる。
“ナナセ君……”
ふと見上げたナナセの瞳は穏やかで。
ミズキは「大丈夫だよ」と、励まされた気がした。
電話の向こうで泣いていたアイリのことも、心配である。
ミズキは気持ちを奮い起こし、アイリの通うN女子大学の校門をくぐった。
ひんやりした空気が流れる、夜の学内。
さきほどから雲行きが怪しい。
雨が降り出してきそうだ。
梅雨のような湿気の匂いが広がっている。
N女子大学もすでに人の気配はなく、学内の電灯もほとんど消されており、サークルに参加している学生の姿くらいしか見られなかった。