しゃぼん玉
ナナセは、自分の家庭のことを話した。
ナナセの両親は、ナナセが幼い頃からずっと、彼一人を自宅に残して仕事に出かけていることが多かった。
大学教授をしている彼の父親は、大学内での活動だけでなく、常に、全国のあらゆる地域の講演会での演説を頼まれるような人だった。
華道と茶道の講師をしている母親も仕事が忙しく、仕事以外の人付き合いにも顔を出さねばならなかったことから、留守がちだった。
「たしかに昔は、寂しい思いをしたこともあった。
でも、父さんも母さんも俺を育てるために一生懸命働いてくれてるんだって思ってる。
仕事が好きっていうのもあっただろうけど。
宇野君の両親も、きっとそうだと思う。
好きで宇野君を一人にしてるわけじゃないんだよ。
なのに、それを言い訳にリョウ君を追い詰めただなんて、間違ってる」
アイリは、ナナセの反論にショックを隠せなかった。
彼女も、心のどこかではわかっていたのだ。
けれど、こうもハッキリ言われてしまうと、何も救いがないように感じてしまう。
マサヤは大罪人。
そんな烙印(らくいん)を押された気がした。