しゃぼん玉
松本は落ち着かぬ手つきでアゴを触りつつも、真剣な眼差しで言った。
「東藤君。君に、うちの息子の勉強を見てもらいたいんだ。
もちろん、報酬はちゃんと支払うよ。
君の都合が良い日だけで構わない。
だから……」
「えっ……。
でも、俺、そういう経験はないんですが……」
松本の突然の申し出に、ナナセは困惑した。
今まで、お金をもらって人に勉強を教えた経験などなかったから……。
松本はそんなナナセを安心させるように笑顔を見せ、
「君は、ここへ入学して初めて受けたテストで、高得点を取っていたじゃないか。
高校の時からそんな調子だったみたいだね。
他の先生方も、君のがんばりを誉めていたよ。
それだけ早く学習内容を吸収·熟知し、理解している証拠だ」
“どうしよう……。
先生、俺のことすごい買い被ってる……”
ナナセはそれから、いくつかの言葉を用いて丁重に断ろうとしたのだが、結局、松本の押しに負けてしまった。