しゃぼん玉
“どうしよう……。
なんか、気が重いなぁ……”
松本と別れたナナセは、そのまま外へ出て風に当たった。
“松本先生の息子なんだし、普通の家庭教師に頼んだ方がいいんじゃないかな?
なんで俺なんかに頼んで来たんだろ……”
ため息をつきながら、冬の空気で冷えたベンチに座る。
松本に息子がいたことも初めて知ったが、松本があんなにナナセを誉めてきたことも、ナナセにとっては意外だった。
ナナセには自分の良さがわからなかったし、ミズキと付き合い初めて多少自分に自信を持てるようになったとはいえ、人に物を教えるという経験がないから、どうしても不安になる。
“ミズキちゃんやシュン、マナちゃんなら、こんな時どうするだろう?”
ミズキの顔を思い出したが、彼女はいま授業中だ。
取り出したケータイを仕方なくポケットにしまい、ナナセは2時限目の授業が開かれる教室へ向かったのだった。