しゃぼん玉
座敷部屋の中。
メイは険しい表情で、玄関先にいるリクを眺めた。
「ミズキ……!
どうしてリクが来てんの?」
ミズキは片目を閉じてみせる。
「お母さんに聞いたよ。
メイちゃん、リク君に本当の気持ちを話すんでしょ?
逃げちゃだめ」
「……でも……。こわいよ、やっぱり……」
「私がいる。
メイちゃんはもう、ひとりじゃないよ」
そう。星崎メイは、“独り”ではない。
穂積メイだった頃の孤独はない。
ミズキはメイの頭を柔らかい手つきでなで、ゆっくり話した。
「これからも、寂しい夜があると思う。
つらくてつらくて、仕方がない夜があると思う。
過去を思い出して、泣く夜もあるかもしれない。
でも、リク君の目をよく見て。
あれは、人を裏切る目じゃない。
まっすぐに、メイちゃんを見てる目だよ」
いつの間にかリクは、二人がいる座敷部屋の出入口に立って、メイのことを見ていた。
「メイ……。今日、誕生日だよな」
キラキラしたラッピングペーパーの包みを抱きしめ、リクがつぶやく。
その中にたくさんのしゃぼん玉セットが入っていることを、メイはまだ知らない。