しゃぼん玉

座敷部屋の中。

メイは険しい表情で、玄関先にいるリクを眺めた。

「ミズキ……!

どうしてリクが来てんの?」

ミズキは片目を閉じてみせる。

「お母さんに聞いたよ。

メイちゃん、リク君に本当の気持ちを話すんでしょ?

逃げちゃだめ」

「……でも……。こわいよ、やっぱり……」

「私がいる。

メイちゃんはもう、ひとりじゃないよ」

そう。星崎メイは、“独り”ではない。

穂積メイだった頃の孤独はない。


ミズキはメイの頭を柔らかい手つきでなで、ゆっくり話した。

「これからも、寂しい夜があると思う。

つらくてつらくて、仕方がない夜があると思う。

過去を思い出して、泣く夜もあるかもしれない。


でも、リク君の目をよく見て。

あれは、人を裏切る目じゃない。

まっすぐに、メイちゃんを見てる目だよ」


いつの間にかリクは、二人がいる座敷部屋の出入口に立って、メイのことを見ていた。

「メイ……。今日、誕生日だよな」

キラキラしたラッピングペーパーの包みを抱きしめ、リクがつぶやく。

その中にたくさんのしゃぼん玉セットが入っていることを、メイはまだ知らない。

< 859 / 866 >

この作品をシェア

pagetop