恋心屋
でも、中学生になると、あるときから僕のことを「裕太くん」と「くん」付けするように距離を置くようになった。


「ユーちゃん」という呼称から、突然「裕太くん」に呼称が変わった。


僕はミホにとって「裕太くん」になったのだとおもった。


それまでにケンカをしたこともなければ、デートもしたこともない。


よくいわれるような友人以上恋人未満、という関係でもない気がする。


それからは、同じクラスになることはなかったが、委員会が一緒になることもあり、そのときには軽く話はする。


でも、小学校までの想い出をミホは選んでいたようにおもう。


というよりは、中学校からは二人だけの秘密の想い出はなかった。


そして、今なにに興味があるだとか、好きな曲は、ドラマはなにか、などという会話はしない。


お互い、「今」を話すことはなかった。


「ねぇ、覚えてる?」


これがミホの口癖だった。


僕にとってはあまり触れたくないようなことは避け、それでもお互いに優しく笑えるような話題になることが多かった。


ミホが語る想い出の中の僕は、どんな風に映っているんだろう。



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「恋心」と書かれた文字をみて、なぜかミホのことが思い浮かんだ。
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