恋心屋
「すべて具体的な恋心です」


強く言った。



なんだか怒っているように見えたけれど、そうではないらしい。


そんなに深いことをたずねたわけではないのだけれど……。


ただ、初心者にはそれなりのガイドが必要じゃないか、そんな気持ちだったのに。


僕の表情がくもっているのを察したのか、ミツキさんがこう言った。


「恋心にガイドはないし、ベテランもいません。恋愛に関してはベテランがいるかもしれませんが、恋心に関してはみんな初心者です」


「それはミツキさんも?」


一瞬ためらっているような気がしたが、はい、とミツキさんは言った。


「ただ、期間は1週間です。それさえ守っていただけたら、何をしても大丈夫です」


「何をしても」ということばを聞いて、頭の中で動揺してしまった。


表情には出さないように慎重になりながら、でも僕は恥ずかしくなった。


目の前にはミツキさんしかいないのに、ミホの顔を思い浮かべてしまった。
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