メニューのないレストラン
街の裏路地にひっそりと佇むレストラン。玄関の左右には、心をほっとさせるライトアップに、手入れの行き届いた可愛い花々、ハーブ、木々が並び、ドアノブに掛けられたラベンダーのサシェからは、疲れた心身を癒やす香りが、辺りを漂っている。少し笑みを浮かべて、レストランの名前を見るが……フランス語で解らない。二階には、テラスがあるようだ。店内を見るが、店員は誰も居なかった。
(……?)
狐につままれたまま、おそるおそる扉を開けると、小さく鳴る鐘の音と共に、外からではよく見えなかったアンティークの店内が目の前に広がる。バランス良くセットされたテーブルに、きっちり纏められた高そうな調度品。何だか、おとぎの国に迷い込んだような気がした。
「いらっしゃいませ。お客様」
「……! はいっ」
少し驚いて見ると男性の店員が立っていた。年の頃は、二十代後半だろうか。細い銀縁の眼鏡を掛け、皺ひとつない黒のスーツを着用している。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。何か温まる物をご用意致しましょう」
「あっ、私、予約してないんですけど……」