メニューのないレストラン

店員の背中を目で追いながら、彼女はまだ狐につままれた感じがしていた。この空間は、本当に存在しているのだろうか、と。少しの不安と好奇心が入り乱れる中、それでもどこか落ち着く雰囲気をこの店に感じた。



「では、お食事のご用意をさせて頂きます」


戻って来た店員は慣れた手つきで、テーブルにスプーンやナプキンを置き、 温かいお茶を淹れてくれた。辺りに湯気が立ち、心を和ませてくれる。


「オーダーは日本食でしたので日本茶をご用意させて頂きました」


「ありがとうございます。……でも、こんな場所にレストランが有ったなんて、ちょっと驚きです。あと、メニューの無いレストランていうのも素敵ですね」


お茶を一口飲んで、彼女は言った。


「はい。私は、このレストランを開く前に思っていたのです。お客様が心から癒され、どこか懐かしさを感じる店にできないか、と」


「……そうだったんですか。なんていうか、とても素晴らしいことだと思います」


「ただ、『注文の多い料理店のようですね』とお客様に言われたこともございますが」


「それは……」


「やはり似ているからでしょう」
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