メニューのないレストラン

店員は微かに笑って言った。


「では、料理ができたようですので取りに行ってまいります」


店員は頭を下げ、胸の前で腕を直角に曲げると、一礼して厨房へと向かって行った。しばし待っていると、店員が白い皿をお盆に載せて帰ってきた

「お待たせ致しました」

。店員はそう言うと、馴れた手つきでテーブルに抹茶がかった色のマットを敷き、皿を静かに置いた。


「蓋や皿などは大変に熱くなっておりますので、気をつけてお召し上がり下さい。では、私は向こうに居りますので、何かありましたら呼鈴でお知らせ下さい」


再び一礼をした店員は、奥へと下がって行った。彼女はナプキンを脚の上に敷き、蓋を上げると微かな湯気が目の前に広がってゆく。皿に視線を移すと、ふわふわとした黄色と白がきれいに交ざりあっていて、真ん中には繊細に刻まれた海苔が浮いている。彼女はスプーンを手に取り、一すくいを口にした。その瞬間、涙が込み上げてきた。
素朴だけれど……とても懐かしい味……。
何の出汁(ダシ)も使われていないのに、どうしてこんなに美味しいのだろう。
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