メニューのないレストラン

「はい。お客様に喜んで頂けて嬉しい限りです。では、そ、その仕事がありますので……」


彼は引き締まった大きな体を機械仕掛けのように反転させると早足に厨房へと去って行った。


「あ……」


「彼は極度の恥ずかしがり屋なのです」


「そうなんです、ね。何だか可愛いなっていうと男の人は怒るかな」


「いいえ、もっと恥ずかしがると思いますよ」


「そうなんですね」


彼女は笑って、椅子から立ち上がった。


「お帰りになられますか?」


「ええ。もっと居たいのですが……」


「かしこまりました」


店員は、玄関に向かうとコートとマフラーが掛けられたポールスタンドの横で待っている。彼女は歩いて行き


「会計をしたいのですが、お幾らでしょうか」


と聞いた。


「どうぞ、お客様がお決め下さい」


「え? あの、本当にそれでいいのですか……?」


「はい」



彼女はおずおずと財布を鞄から取り出すと、千円札を渡した。


「お預かり致します」
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