メニューのないレストラン
彼女は惜しむように店内を見渡して、
「あの……この店の玄関に掛けてあった看板に書かれてあるのは、フランス語ですよね? 意味は何というのですか?」
と言った。
「はい。゛思い出 ゛でございます」
「……思い出……」
「お客様」
「はい」
「これをお持ち下さい」
店員の手を見ると、ビニールの袋に入った、微かにラベンダーが香るサシェがあった。
「色々として頂いた上に、ありがとうございます」
「はい。ご来店まことにありがとうございました。またのお越しを店員一同、お待ちしております」
店員が深々と一礼するのを見ながら、私はドアを開けて外へと出た。ここには、またいつか訪れる気がする。そう思いながら空を見上げると、寒さと引き換えに月が白く輝いていた。
-act.1- 出会い。END