トツキトオカ
私がつまらない嘘をついたせいで慌てふためいている中、入院の準備は着々も進められたようだ。

すぐに助産師さんが迎えに来て私と夫は病室へ向かった。

入院用の下着と衣服に着替え、早速麻酔のチューブを入れる為に処置室に入った。

ここで明日、出産するのだ。

分娩台と思われる台の上に横たわり、体を横向きにして背中を丸めるように指示されるのだがこれがまた結構辛い。

なんせお腹がこれ以上無いくらいにせり出ているのに、お腹を抱え込むようにして「顔と膝をできるだけ近づける」イメージで体を丸めなければならない。

ビクス仲間の話でも、この麻酔チューブを入れる時が無痛分娩で唯一の苦痛らしいよと噂になっていた。

しかもこのダンゴムシのような態勢を数分継続しなければならないのだ。

院長が私の背中にチューブを入れる。

途中、ここが一番大事だから絶対に動かないようにと強く言われたのだがプレッシャーに弱い私はまんまと動いてしまいやり直しになったりした。

その間もずっとダンゴムシ状態である。

もう一度言うが、お腹はデーンとせり出している。

これはまた、えらいこっちゃだ。

「はい、終わりましたよ。もういつでも麻酔できるからね」

ふう。

それにしても、麻酔用のチューブを出産の前日に入れるなんて不思議だ。

今晩このまま眠って、ズレたりしないのだろうか。

「マタニティビクス40回は優秀だね」

そう言って院長は去って行った。

私が何ともいたたまれない気分になったのは言うまでもない。


< 44 / 51 >

この作品をシェア

pagetop