トツキトオカ
いざ、分娩室へ
ストレッチャーに乗せられたまま分娩室に入り、助産師さんの手助けを借りて分娩台へと移った。

婦人科の内診台のようなつくりで、恐らくそこを握っていきむのだろうと思われるハンドルのようなものが左右に二つ。

まさか自分がこの台の上に乗り、人間を産み出すことになるなんて昔は全く想像できなかった。

むしろ今こんなにもお腹が大きくなっていて、エコーでその姿を見たり機械で心臓の音を聞いたりしていても、お腹の中に人間がいることをまだちゃんとわかっていなかった気がする。

でも小僧はすぐそこだ。

髪の毛だって見えている。

ビビっている場合では無いのだ。

分娩台の上に乗った私は、着ていた入院着を取られて裸の上に大きなバスタオルを掛けられた。

バスタオル1枚で出産するのか・・。

体は隠れているとは言え、何だかちと頼りない。

左右のバーに掴まり、助産師さんのリードでいきみを始めた。

張りを感じたら体を丸めながらぐっといきむ。

確かこの動きはマタニティビクスで練習したぞ。

「上手、上手」

助産師さんに言われ、褒められて伸びるタチの私は上機嫌でいきみを繰り返した。

陣痛が無いので、助産師さんたちと普通に会話しながらの出産。

改めて無痛分娩のすごさを実感した。

もう入口(出口か?)の所まで小僧が来ているのがわかる。

痛みは無くても感覚はばっちり。

いきみ始めて15分。

助産師さんの呼び出しを受け、分娩室に院長先生が登場した。

ということはもう間もなく生まれるということだ。

私は緊張と興奮のピークに達した。

院長は私の足元に来ると「あれ。もう出るね」と言い、廊下で待つ夫を急いで中に入れるよう指示した。

助産師さんに促され夫が慌て気味に入ってきた。

小僧がもう出る!

「んーっと声を出しながら軽くいきんで~」

私はんーーーっと声を出した。

隣の夫も一緒にんーっと言っている。

「はい、赤ちゃん出ますよ!よく見て!いい?体丸めてよく見て!」

出てくる、私の中から小僧が出てくる!

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