しみる恋。
少し、咎めるように言ってから、彼女はクスリ、と唇で笑った――。

その、魅惑にドキッとする。

豊は慌てて目をそらしながら、当たり障りのない言葉を探した。


「ううん、なんでも……ない」


サラッと背に流した髪が、午後の風になびいて、美しく散った。

それをかきあげる仕草まで、瞳に焼き付けたいほどのきれいなシルエットとなって、豊の心を乱した。

彼女の唇が、もう一度笑みの形をつくる。


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