Vrai Amour ~秋緒の場合~
「・・・咲子さんに好きな人がいることぐらいは知っているんだろ?」
・・・・やっぱりそうか。
どうやらじじいはすべて調査済みの上で俺に話をしてくれるようだ。
「相手は誰だか知っているのか?」
その質問には答えられず、小さく首を振る。
「・・・執事の朝比奈さんだそうだ」
「・・・」
俺は3日前、病院に走ってきた執事のことを思い出す。
汗をかいて、真っ青な顔でやってきたあの執事だ。
あの日に感じた違和感はやはりこのことだったのか。
「結婚前からずっと彼一筋だそうだ」
だとすると、ざっと30年は経っていることになる。
気の遠くなるような年月を、あの二人は奥様と執事でいることを選んだ。
「じゃあ、なんで・・・」
咲子は、俺とのあのマンションにいつも朝比奈を連れてきていたんだ・・・