△~triangle~

「……様。明様」

コンコンと扉を叩く音と共に俺を呼ぶ声が聞こえ、俯く顔を上げた。

部屋の隅で膝を抱えたまま、結局一睡も出来ずにいる。

俺を呼ぶ声には答えないまま、壁に掛けられている時計を見ると……いつのまにか昼を過ぎていた。

「明様、今日はご主人様のご友人のお子様が遊びに来ておられます。部屋から出て、一緒に遊んではいかがでしょうか」

扉越しに俺の世話役の佐伯(さえき)が声を掛けてくるが、それには答えない。

……《あの日》以来、俺はこの部屋に籠り続けている。

学校にも行かず、この部屋から出ないまま……もうどれだけの時間が経ったのだろうか。

しかしそんな俺を誰も責めたりはしない。

それが俺を余計に虚しくさせた。

「今日はいい天気ですし、少し日に当たってみてはいかがですか」

無視されるのも構わずに佐伯は俺に話しかけてくる。

彼女は俺が物心のついた時からこの家に居る使用人だった。

俺を生んですぐに体を壊していた母の代わりに、俺の面倒を見てくれていた。

しかし優しい彼女の言葉すら、俺には届かない。

俺を気遣ってくれる彼女の優しさが……俺には辛かった。
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