△~triangle~

「蓮様も心配されていましたよ。最近はご飯もちゃんと食べていらっしゃらないし、昨日だって明様のお傍を離れるのは心配だと……」

「そっか……蓮は修学旅行だったよな」

佐伯の言葉を遮ってそう呟くと、《はい》と短く返事が返って来る。

「昨日もさんざん蓮様が仰っていたではないですか。この部屋に籠るのは自由ですが、ご飯はしっかり食べる事と」

その佐伯の言葉には何も答えないまま、ギュッと膝を抱えた。

……蓮。

俺の誕生日のパーティーの夜、突然紹介された……俺の《兄》

あれから蓮はこの家に住み始め、いくらかここでの生活にもなれた様だった。

あの日から俺は蓮も父親も避け続け、二人はそんな俺の態度を何も咎めなかった。

それから気が遠くなる程に色んな事があり、俺はこの部屋に籠り続けている。

蓮は俺を心配そうに気遣いながら、毎日この部屋の前にやってきた。

俺は扉の先から投げ掛けられる蓮の言葉に耳を塞ぎ、決して扉を開こうとはしなかった。

《おはよう明。今日は天気が凄くいいよ》

《ただいま明。ご飯はちゃんと食べたの?》

《おやすみ明。今日はいい夢を》

蓮はそう言って毎日、俺の部屋に足を運び続けた。

決して返って来る事の無い答えを蓮は分かっていながら、どんな気持ちでこの場に足を運んでいたのだろうか。

次第にそんな事を考える様になり、そして《あの夜》……俺はこの部屋に蓮を招き入れた。

……それから蓮だけは、この部屋に入る事が出来る。

他の誰も立ち入れさせないこの部屋に、蓮だけは迎え入れる事が出来た。

……どうしてそんな事になったのか、自分でも分からない。

ただ蓮と一緒に居ると落ち着く様な気がした。

蓮だけは俺の心を分かってくれる様な……そんな気がした。
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