△~triangle~
「明様、とりあえずお食事だけでもして下さい。ここに置いておきますから……あら?……綾香様」
扉越しの佐伯の声に、そっと俯く顔を上げた。
「……申し訳ございません。坊ちゃまは今日は具合が悪いらしくて……せっかく来て頂いたのに」
「そっか……じゃあ私は帰ってもいいの?」
「はい。すぐにお車を用意致します」
そう言うとパタパタと扉の前を離れて行く足音が聞こえた。
「……ねぇ。具合は大丈夫なの?」
突然聞こえたその声に、ビクリと身を竦ませる。
「こんなにいいお天気なのに外に出られなくて残念だね」
扉越しのその少女の言葉に何も答えられないまま、強く膝を抱えた。
「早く良くなるといいね」
少女のその優しい囁きと共に、彼女の足音が遠くなっていく。
ひとりぼっちのこの部屋にシンとした静寂が戻り、それと共にどす黒い感情が渦を巻く。
……何も知らないくせに。
そう心の中で吐き捨てると、ギリッと歯を食い縛った。
昔から親父は、この家に俺の遊び相手の子供を呼んでいた。
……《子供らしい友達》を。
そういうつもりで呼んでいたんだと思う。
でもそんな頼まれた子供たちと一緒に遊んでも、全く楽しくなんてなかった。
俺のご機嫌を窺う様に親にきつく教えられている彼等と一緒に居た所で、ただどうしようも無い苛立ちが募るだけだ。
……何も知らないくせに。
もう一度そう心の中で呟き、ギュッと膝を抱え俯いた……その時だった。