△~triangle~

「……ねぇ!!」

窓の外から声が聞こえ、俯く顔をそっと上げた。

「ねぇってば!!」

まるで俺を急かす様にその声は俺を呼び続ける。

フラフラと立ち上がり、閉められたままのカーテンを少しだけ開き窓の外を見ると、眩しい太陽に照らされる美しい中庭が見えた。

そしてその中に、一人の少女が立っているのが見える。

彼女は俺の姿に気付くとニッコリと眩しい笑みを浮かべ、それから手にしている……バイオリンを構えた。

そして彼女の小さな手が弓を引くと、そこから美しい旋律が溢れ出す。

燦々と輝く太陽のスポットライトに照らされ、華麗にバイオリンを奏でるその少女の姿を見つめたまま……ただ茫然と立ち尽くした。

彼女の奏でるその曲を……俺は知っていた。

何故ならそれは生まれて間もない頃、母親が俺に歌って聞かせてくれた……子守唄。

その懐かしく切ない旋律を聞いたまま、ボロボロと頬を涙が伝って行く。

流れる涙を拭う事すらせずに、目の前の少女を見つめ続ける。

彼女は優しい穏やかな笑みを浮かべたままバイオリンを奏で、そして最後に彼女が弓を引くと、その旋律は……静かに消えて行った。
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