△~triangle~
あれから皆で朝食を食べると、急いで支度を終えた明は慌てて部屋を飛び出して行った。
《僕もちょっと用事があるから出掛けてくるね》
そう言って出掛けて行った蓮を見送ると、ポツンと一人、部屋に残される。
2匹の猫とフローリングの床に寝ころんだまま、大きな窓から空を見上げた。
雲一つ無い抜ける様な青空が広がり、燦々と輝く太陽の光がこの部屋を照らしている。
その温かな光を浴びながらゴロゴロと床の上を転がった。
「……暇だ」
そう小さく呟き、深い溜息を吐く。
ここに来てからすでに1カ月が経とうとしている。
明は大学やバイトが忙しいらしく、部屋に帰って来ない事も多い。
蓮は蓮で普段はこの部屋に居るが、ちょくちょく理由も言わないまま出掛けて行く事が多かった。
そんな中、特にやる事のない私は、すでに時間を持て余している。
今までの人生で……バイオリンが私の全てだった。
遊ぶ時間も惜しみ、小さな頃から一生懸命練習をして来た。
だから余計に、この何もしない時間というのが……少し辛い。
元々ボーっと何もせずに外を眺めたりをするのが好きだったが、今、バイオリンを失った私には、この時間が苦しかった。
何もせずにいると、嫌でも失った多くのものを思い出してしまう。
それは弾けなくなってしまったバイオリンの事や、飛び出してきた家の事。
死んだ母の事や、厳しい父の事。
そして……これから何をすべきなのか。
そんな事がグルグルと頭の中を廻って、とても気分が悪くなる。
二人と一緒に居る時は、面白くて、楽しくて……そんな辛い事も忘れられている気がした。
しかし二人が出掛けてしまい、この部屋に残されると、どうしようもない不安が私を覆い尽くしてしまう。
シンと静まり返ったこの部屋で、猫2匹の温もりだけを感じていると、嫌な記憶が頭の中を廻って行く。
……ダメだ。
……とりあえず、外に出よう。
そう心の中で呟くと勢いよく身を起こし、そのままフラフラと散歩に出掛けた。