△~triangle~

「……一つだけ……聞いてもいいかな」

その彼の問いに、コクリと小さく頷いて答える。

「奈緒は……元気にしているかい?」

「……奈緒先生ですか?」

思いもよらなかった彼女の名前に、首を傾げて見せる。

……奈緒先生。

私のバイオリンの先生で、今は父と再婚し、私の義理の母になった人。

とても綺麗で才能のある人で、練習はとても厳しかったけど……気さくで優しい人だ。

でも、どうしてこの人が……

窺う様な私の視線に彼は困った様に笑って、ブンブンと首を横に振って見せた。

「い、いや、やっぱりいいんだ。何でもない」

「奈緒先生なら元気ですよ。最近は公演が忙しいらしくて、色んな所を飛び回っているみたいでしたけど……」

「そっか……元気ならいいんだ」

私の答えに彼は嬉しそうに、まるで子供の様な笑みを浮かべる。

「お知合いなんですか?」

「う、うん。彼女も学生時代の……友人でね。君のお父さんとお母さん、それと彼女と僕の四人で、よく遊んだんだよ」

そう言って彼は遠い記憶を懐かしむ様に微かに目を細めたまま……悲しそうに笑った。
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