△~triangle~
15 ディープなお話(明)
駅から続く真っ直ぐな道を、トロトロと歩きながら家へと向かう。
寝坊し慌てて家を飛び出し大学へ向かったが、最悪な事に今日は講師が休みで休講になったらしい。
そのままトンボ帰りで元来た道を戻り、こうして家へと向かっていた。
そっと空を見上げればそこには眩しい太陽が光り、その光の照らすアスファルトの歩道を歩き続ける。
それから暫く歩き続け、最後の曲がり角を曲がれば、そこには十五階建ての高層マンションが姿を現す。
蓮が高校を卒業し、俺が中学を出てすぐに、あの憂鬱な館から移り住んだ……《俺達の家》
あの家を出てから、蓮はすぐに働き出し、俺もバイトを決めた。
ここに移り住んだ最初の頃は、金銭的には何不自由なく育った俺には、二人きりの普通の生活は思いの外、大変だった。
高校に入ってすぐに始めたバイトも、最初は辛くてすぐに投げ出しそうになった。
しかし何とか続ける事ができ、少なかったバイト代は全額蓮に生活費として渡していた。
料理も掃除もロクに出来ず、一般常識すら疎い俺に、蓮は俺が理解できるまで、ひとつひとつを優しく教えてくれた。
そのお陰で今では料理に掃除、洗濯に裁縫など……とりあえず一通りの事が出来る様になった。
……蓮にはとても感謝している。
俺をあの仄暗い閉鎖的な世界から連れ出してくれたのは……蓮だ。
あの日蓮が一緒に行こうと手を差し伸べてくれなければ、俺は今頃、どうなっていたか分からない。
あの家を離れ、このワンルームで暮らせたから、俺は今の自分を保てている気がしている。
……ここは俺にとって大切な場所。
俺が本当の俺で居られる……唯一の場所だ。
そんな事を考えながらマンションの入り口に入ったその瞬間、見えた姿に思わず歩く足を止めた。
オートロックのマンションの入り口に、青い顔をしたノラと……あの《男》が立っている。