△~triangle~

「私、貴方に凄く感謝してる。だって貴方と会えなかったら……私はバイオリンを続けていなかったかもしれないから」

ノラはそう言って僕を見つめると、少しだけ悲しそうに瞳を揺らす。

「貴方にとってはどうでもいい事だったのかもしれない。ただの気紛れで遊んでくれただけなのかもしれない。でも私にとって貴方は大切な人だった。だからどうしても貴方にもう一度会いたかった。会って……もう一度話したかったの」

その彼女の言葉に、微かに嘲笑を浮かべた。

「ノラ、その話は終わりだ。もうすぐ明が帰って来るし……」

「蓮!!」

僕の言葉を遮ってノラは僕の名を呼ぶと、まるで咎める様な瞳で僕を見つめた。

その彼女の瞳にどうしようもない苛立ちを感じ、微かに唇を噛み締める。

「……分かった。分かったよ。それじゃあ仮に僕が君の言うその少年だったとして……君は何がしたいの?」

沸々と沸き上がる混沌とした感情を何とか抑えながら、彼女にニッコリと笑みを向ける。

「十年も前に別れたきりのその少年と会って、君は一体何を話したいの?」

嘲笑にも取れる不快な笑みを浮かべる僕を見て、ノラは少しだけ眉を顰めた。

しかしノラはグッと息を呑み、僕から視線を逸らさないまま小さく口を開く。
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