△~triangle~

「……蓮」

そう先に声を漏らしたのは、明だった。

明は蓮を真っ直ぐに見つめたまま、緊張した様に表情を強張らせている。

「ただいま」

そう言って蓮は笑うと、そのまま自分のクローゼットに向かい、大きなバッグに次々に服や小物を詰めて行く。

「……何してんの?」

黙々と荷物を詰める蓮の後ろに明は立つと、少し冷たい声で蓮に声を掛けた。

「何って……この家を出て行く準備だよ」

「……本気で言ってんのかよ」

「当たり前でしょ。どうしてそんな事聞くの?明だって分かってるはずでしょ?」

蓮はそう言うと小さく首を傾げ、困った様に笑って見せる。

部屋には息も出来ない様な重苦しい空気が広がり、キッチンにいるシロとクロも食事を止め、円らな瞳で二人を見つめていた。

それから暫く沈黙が続き、その中で蓮は黙々とバッグに物を詰めて行く。

そんな光景を私と明は茫然と見つめたまま、声すら掛ける事が出来ずその場に立ち尽くしていた。
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