△~triangle~
「蓮!!」
後ろから聞こえたその呼び声に、ビクリと身を強張らせ歩く足を止めた。
その声が……《彼》だったらどんなによかった事だろうか。
そんな考えが頭に浮かび、しかしそのあまりにも愚かな願いに、微かに嘲笑を浮かべる。
本当は心の奥底で、彼が追って来てくれる事を望んでいたのかもしれない。
そうすれば僕等はまだ一緒に居られる。
まだ間に合うのかもしれない……と。
しかし……そうはならないだろう。
明は決して僕を引き止めない。
彼は僕を責める事も……そして《赦す事》もしないのだから。
クスリと微かに吐息を漏らしながらそっと後ろを振り返れば、そこには思った通りの姿が見えた。
降り続ける冷たい雨に長い髪を濡らし、ゼイゼイと呼吸を荒げ、真っ直ぐに僕を見つめる少女。
……ノラ。
心の中で小さく彼女を呼ぶと、ノラは乱れる呼吸を必死に抑えながら、一歩僕に近付いてきた。