△~triangle~
『私……何も知らなかった。本当に……何も知らなかったの』
そう擦れる声で呟いたノラに、小さく頷いて見せる。
するとノラは何か考える様に暫く俯き、それから微かに息を吐いた。
『私……行かなくちゃ』
そのノラの言葉と共にそっと彼女に視線を向けると、彼女の揺らめく瞳と目が合った。
いつの間にか夜の明けた朝日が彼女の瞳を揺らし、それは俺の心を酷く揺さ振る。
今の俺には、彼女の考えている事が、手に取る様に分かった。
『……うん』
そう呟き小さく頷いて見せると、ノラは同じ様に頷いて見せる。
そしてノラは立ち上がると、手早く身支度を整え……玄関へと向かって行く。
朝日の照らすその背中を茫然と見つめたまま、ほんの少しだけ孤独を感じた。
……ここで彼女を行かせれば、俺は二度と彼女を手に入れる事は出来ないだろう。
彼女に愛される事も、彼女に必要とされる事もない。
しかし俺にはもう……引き止める事は出来ない。
何故なら離れて行く彼女の背中を、美しいと思ったから。
そんな事を考えながら、玄関のノラを見送る。
それは俺にとって悲しい別れの瞬間で、そして何よりも大切なモノを失う瞬間。