△~triangle~

『明……私、行くね』

ノラはそう言って、俺を真っ直ぐに見つめた。

『……うん』

またそれだけしか答える事が出来ず、何とか精一杯の笑みを浮かべて見せる。

しかし……それはどうやら失敗した様だった。

ノラの瞳が悲しそうに揺れた。

『……明、私は……』

『いいんだ。行け』

彼女の言葉を遮ってそう言うと、玄関の扉を開き、そっと彼女の背中を押した。

それに促される様にノラはマンションの廊下へと出ると、それから静かに俺を振り返る。

……さようなら。

彼女の口から放たれるよりも早く、その言葉が頭の中で再生される。

しかし次の瞬間、俺の耳に届いたその言葉は……全く違っていた。
< 288 / 451 >

この作品をシェア

pagetop